手打ち蕎麦の名店「東白庵かりべ」も愛用する「太白ごま油」とは?
今回、「ごま油」についてお話を伺うべく訪れたのは、京王線・千歳烏山駅より徒歩6分の住宅街の先にある手打ち蕎麦の名店「東白庵かりべ」。
店主の苅部政一さんは、蕎麦好きなら誰もがその名を知っている名店「竹やぶ」のご出身です。柏本店に8年、箱根店に1年、六本木ヒルズ店に8年勤務し、2011年に独立。神楽坂でお店を構えた後、2019年に千歳烏山に移転しました。
「東白庵かりべ」では「太白ごま油」を使用していて、和え物から天ぷらまで、さまざまなメニューに使われているのだとか。
ごま油といえば、焦げ茶色で香ばしいイメージが強いと思いますが、太白ごま油は淡い色味で、香りもありません。実はごま油は、焙煎方法や製法によって色味や香り、味わいが異なるんです。
そこで、まずはごま油の種類や特長についてご紹介します!
ごま油についてどのぐらい知っていますか?
ごま油の原料はごまの種子で、ごまの焙煎方法によって大きく3つに分けられます。
おなじみの焦げ茶のごま油は「焙煎ごま油」と呼ばれるもの。高温で焙煎したごまを圧搾して作ります。華やかな香りが広がるので、中華の炒めものや風味づけにぴったりです。
「低温焙煎ごま油」は、低い温度で時間をかけて焙煎したごまを圧搾して作ります。「焙煎ごま油」よりも色が薄く、あっさりとした上品な味わいが魅力です。
「太白ごま油」は、ごまを焙煎せずに生のまま圧搾して作ります。香りやクセがほとんどないクリアな味わいで、素材の旨味や香りを引き立てたい料理におすすめです。
いずれもオレイン酸やリノール酸を豊富に含み、原料に由来する天然の抗酸化物質「ゴマリグナン」の作用で酸化しにくく加熱にも強いのが特長です。
ゴマリグナンの一種で、太白ごま油に多く含まれるセサミノールは、抗酸化作用が強く老化防止の効果も期待できます。
プロがすすめる「ごま油」の使い方
ここからは、「東白庵かりべ」の店主・苅部政一さんのインタビューをお届けします。「竹やぶ」時代から使い続けている太白ごま油の魅力や、太白ごま油を家庭で上手に取り入れるコツなどを教えていただきました。
「竹やぶ」譲りの十割蕎麦が人気!
――苅部さんは「竹やぶ」で17年にも及ぶ修業期間を経て独立されましたが、「東白庵かりべ」のモットーやコンセプトを教えてください。
一生懸命、自分らしくやることです。修業時代も六本木店を任されたときは「苅部の好きなようにやっていいよ」と言われたのですが、なかなかそういうわけにもいかず……(笑)。
自分のやりたいことが果たしてお客さんの好みに合うのかと悩んだこともあったのですが、そういう不安を払拭するために修業したり、勉強したりしてきたので、自信をもって好きな料理をお出ししています。
――中でも人気のメニューは何になりますか?
最近は、テレビ東京の「出没!アド街ック天国」(10/4放送)で紹介された「旬の野菜天せいろ」(平日限定)の注文が多かったのですが、やっぱり定番は「せいろ蕎麦」ですね。
蕎麦は玄蕎麦(収穫したままの殻がついた状態の蕎麦の実)を石臼で自家製粉し、つなぎなしの「十割蕎麦」に仕立てていて、やや細めに打っています。“甘みが感じられるしなやかな蕎麦”だと思います。蕎麦の実は長野県黒姫産をメインに使用していて、11月からは新蕎麦をお出ししています。
あとは「にしん蕎麦」や「蕎麦がき」、「玉子焼き」も人気です。
▲蕎麦の実は修業時代に食べ比べた結果、長野県黒姫産と新潟県塩沢産を使用。細めの十割蕎麦は、香り、風味、喉ごしのバランスが見事!
――「竹やぶ」から引き継がれているメニューも多いのでしょうか?
そうですね、半分はそうでしょうか。やっぱり、慣れ親しんだ味ですし、作り続けていきたいです。特に天ぷらは、一人でやっているお店だとメニューから外す方も多いのですが、天ぷらと蕎麦は相性がいいものなので、なくしたくないですね。
ただ、メニュー自体は、おいしい牡蠣が出てきたら牡蠣の天ぷらを入れたり、磯部揚げに入れる桜海老の旬が終わったら貝柱に替えたりと、しょっちゅう変わります。あと、僕自身がお酒好きなので、「蕎麦前」(蕎麦の前にお酒と肴を楽しむこと)にもこだわっています。
▲メニューが頻繁に変わるため、メニュー表はいつでも入れ替えられるスタイルに
▲日本酒や焼酎はもちろん、蕎麦の味と香りに合わせたワインも豊富にそろう
――「竹やぶ」でのご経験が料理やメニュー以外にも活きているなと感じる部分はありますか?
たくさんあります。店づくりもそうですし、うつわの金継ぎもそうですし、自分でできることは何でもやるようになりました。この店も「竹やぶ」の内装の一部を手掛けた大工さんと一緒にゼロからつくりあげて、僕がテーブルにカンナをかけました。
「竹やぶ」でもそういうことがよくあったんですよね。通し営業で空いた時間ができると「おう、苅部。ちょっと手伝え」って言われて。今でもよく覚えているのですが、修業時代に初めて褒められたことは「おっ、苅部!コンクリ練るのうまくなったな」でした(笑)。
住み込みだったので、技術だけじゃなく気遣いや思いやりなどさまざまなことが身をもって学べて、今振り返ると“青春時代”だったなぁと思いますね。
▲店内は、竹や木を使った温かみのある内装で落ち着いた雰囲気。西洋アンティークの椅子などの調度品も素敵
「太白ごま油」が天ぷら蕎麦のおいしさを引き立てる
――「東白庵かりべ」では「太白ごま油」を使用しているそうですね。その理由と、どんなメニューに使用しているのか教えてください。
太白ごま油は、「竹やぶ」で使っていたものと同じものを使用しています。これ以外に考えられないので、ほかの油に替えようと思ったこともないですし、試してみたこともありません。
僕は「竹やぶ」の「天ぷら蕎麦」の味に感動して、「これを作りたい!」という一心で弟子入りした経緯がありまして。天ぷら蕎麦というと最近は蕎麦と天ぷらが別々に出てくるお店が増えているのですが、昔、天ぷら蕎麦といったらつゆに浸った状態が主流だったんです。
揚げたての天ぷらをつゆに浸すと揚げ油がつゆに染み出して、つゆのコクがアップするんですよね。だからこそ、使う油がとても重要なんです。太白ごま油はクセがなくて素材の良さを引き出してくれるので、本当に良い油だと思います。
▲揚げ油は太白ごま油を100%使用。天ぷらはつゆによく馴染むよう、やや厚めの衣で揚げる
▲冬季限定(11~2月まで提供予定)の「旬の野菜天ぷら蕎麦」(2,200円)。蕎麦の上に6~7種類の野菜天がのり、この日はれんこん、なす、さつまいも、紫玉ねぎ、ごぼう、オクラ。揚げたてのサクッとした天ぷらにつゆが染み入るのを楽しみながら味わいたい
天ぷら以外の揚げ物でいうと「桜海老と蕎麦粉の磯部揚げ」も太白ごま油との相性が良いです。揚げたてがおいしいので、仕込みの段階で小さな桜海老入りの蕎麦がきを作っておいて、注文が入ってから揚げています。
▲「桜海老と蕎麦粉の磯部揚げ」(770円)。桜海老とたっぷりの香味野菜、蕎麦粉、蕎麦つゆを合わせ、海苔を巻いて揚げている。桜海老の香ばしさと蕎麦粉特有のモチッとした食感がたまらない!
あと、太白ごま油は加熱せずに生のままでも使えるので、揚げ油としてだけでなく、和え物やサラダのドレッシングとしても使っています。
コース料理でお出ししている「甘海老のわさびオイル和え」は、太白ごま油がわさびのツーンとした辛さを和らげて、素材の甘みを引き出してくれます。
▲昆布締めした甘海老を塩、わさび、太白ごま油と和えた「甘海老のわさびオイル和え」はコース料理のみで味わえる逸品
――さまざまなメニューで太白ごま油が使用されているんですね。家庭で取り入れるなら、どんな使い方がおすすめでしょうか?
イメージとしては、オリーブオイルやサラダ油と同じような使い方で良いと思います。普段の炒め物や揚げ物はもちろん、和え物にもおすすめです。ワンランク上の仕上がりになりますよ。
あとは、鷹の爪を低温で炒めて辛味のある油にしたり、にんにくやしょうがをちょっと炒めて香味油にしたり。香草を太白ごま油に漬けてハーブオイルにしてもいいかもしれないですね。本当にクセがないので、いろいろなアレンジが楽しめると思います。
▲店主の苅部政一さん
――揚げ物ってどうしても作るハードルが高めで、特に天ぷらが苦手という方も多いと思うのですが、上手に揚げるコツはありますか?
揚げ油の温度を175~180℃にキープすることが大事です。たっぷりの油で揚げる方が温度は下がらないのですが、それもなかなか難しいかと思うので、油の中に一度にたくさん入れないことですかね。
あとは揚げ焼きにしちゃう。食材が半分ぐらい浸るようにして、裏返してあげれば十分火が通りますよ。
―――揚げ油として使用したとき、廃棄するタイミングはどうやって見極めていますか?
揚げているうちに、油の力が落ちてきたな……と気づくときがあるんですよ。コシがなくなるというか。薄い黄金色だった油がだんだん色づいてきて、とろみも出てくる。
そうなると最後に高温で揚げ切る「海老の味噌焼」に使ったり、まかないを作るときに使ったりして廃棄するようにしています。
――お店では太白ごま油のみを使用しているということですが、ご家庭ではどうされていますか?
料理によってオリーブオイルや焙煎ごま油を使うこともありますが、メインはやっぱり太白ごま油です。
たまたま太白ごま油が切れてしまって、妻がほかの油を使ったとき「今日、なんかいつもと違わない?」って聞いたら、「なんで分かったの!?」って驚いていました(笑)。それぐらい、仕上がりが違います。
太白ごま油は体にも良いと聞いているので、安心して使えるところも魅力ですね。お店でも家でも使い続けていくと思います。
――ありがとうございました!
「東白庵かりべ」
住所/東京都世田谷区粕谷4-23-19
アクセス/京王線 千歳烏山駅から徒歩6分
営業時間/(売り切れ仕舞い)
平日:11:30 ~ 14:30(LO)/ 17:30 ~21:00 (LO)
日祝:11:30 ~21:00(LO:20:30)
定休日/水曜日
※不定休あり(ホームページをご確認ください)
TEL/03-6879-8998
新潟県塩沢産と長野県黒姫産の蕎麦の実をゆっくりと石臼で挽いた、こだわりの手打ち蕎麦が楽しめる名店。「せいろ蕎麦」(1,100円)は十割、「田舎せいろ」(1,100円)は二八の割で打つ。蕎麦前やお酒も充実していて、コース料理(昼は6,600円~、夜は7,700円~/要予約)もある。
※価格はすべて税別となります
「太白ごま油」を取り入れてみませんか?
焙煎しないごまを圧搾・抽出して作られた太白ごま油。利用方法はほかの植物油と同じで、さまざまな料理に幅広く使えます。
【揚げもの、炒めもの】
油は加熱することで劣化が進み、嫌なにおいが発生しますが、太白ごま油は加熱に強く、酸化安定性に優れています。揚げ物もカラッと軽い食感に仕上がります。
【ドレッシング、和え物】
サラッとしてクセがないため、素材本来の味わいが楽しめます。乳化性も良いため、ドレッシングにしても分離しづらく、なめらかに仕上がります。
【お菓子やパン】
バターの代わりに使うと焼き上がりが油っぽくなりにくく、冷めてもふわふわ、しっとり感が持続します。液体で常温なのでバターのように溶かす必要がなく、軽量も簡単です。
また、ごま特有の有用成分ゴマリグナン類(セサミン、セサミノールなど)を含有しているので、毎日の健康をサポート。ゴマリグナンは、揚げ物などの調理をしても料理に含まれます。
素材の味を活かしたいときは「太白ごま油」、香りづけしたいときは「焙煎ごま油」というように、料理によって使い分けてみてはいかがでしょうか。